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医療保険制度(健康保険制度) 5号

「協会けんぽ」つづき
5.協会けんぽの給付事由

① 業務外の傷病に給付
 協会けんぽ、組合健保等の健康保険は、業務外の事由による傷病について保険給付が行われます。これに対し、業務上の事由による傷病については、労働者災害補償保険(労災保険)から保険給付されます。つまり、傷病が業務外か業務上かによって、給付される保険制度が異なっています。
ただし、通勤災害については、本来は業務外であり業務上ではありませんが、労災保険より通勤災害として業務上に準じた保険給付が行われるため、健康保険から保険給付はしないことになっています。
 一般的に労災保険が業務上(通勤災害も含む)の傷病でなければ保険給付されないことはよく認識されていますが、健康保険が業務外の傷病でなければ保険給付されないということの認知度は低いようです。そのためか、仕事中に仕事に起因して軽いケガを負った場合など、労災保険を使うことを面倒くさがって健康保険で受診するケースがあるようですが、これは明らかに健康保険の不正受給に該当しますし、事によっては労災隠しとみられることもありますから、業務外=健康保険、業務上=労災保険の使い分けは厳守しなければなりません。
ただ、業務外=健康保険、業務上=労災保険とすれば、法人の社長(業務執行権のある役員も含む)が仕事中に業務に起因したケガをしたような場合が問題になります。労災保険は、名称の通り、「労働者災害補償保険」です。これはあくまで労働者が対象であって、法人の社長は対象にはなりません。したがって、この場合、労災保険の適用は受けられないばかりか、業務上ですから当然健康保険の給付を受けることも出来ません。つまり無保険状態ということになり、治療費は全額自己負担ということになります。
 我が国の社会保障制度は、国民皆年金・国民皆保険をうたっています。にもかかわらず、こういう事が生じてしまうわけです。(なお、国民健康保険には業務上・業務外の区別はありません。したがって、個人事業主は、その事業所が健康保険の適用事業所となっていたとしても本人は国民健康保険に加入していますから業務外であろうと、業務上であろうと国民健康保険により保険給付されます。)  そのため、労災保険では中小企業の経営者(法人・個人とも)が加入できる「労災保険特別加入制度」(この制度には中小企業経営者の他に、大工、タクシー運転手等の一人親方、海外派遣者等も加入することができます)を設けています。この制度に加入すれば、労災保険の適用を受けることができます。しかしながら、この制度に加入できるのは、あくまで中小企業の経営者であり、中小企業に該当しない企業の経営者は加入することは出来ません。
また、この制度は、労働基準監督署において直接手続きすることは出来ず、労働保険事務組合というものを経由しなければならないため、中小企業経営者がこの制度自体知らないケースも結構あるようです。その上、特別加入していたとしても労災保険給付されるのは、各企業において労働者が行っているものと同様の業務に起因した傷病に限られています。
 このように、健康保険=業務外、労災保険=業務上と厳格に区別することにより社会保障制度は、大きな盲点を作り出してしまっています。
 現在、こういう事態を防ぐために、当面の措置として、例外的に被保険者数が5人未満である適用事業所の法人の代表者(社長)等で、一般の従業員と同じような労務に従事している者については、事業の実態等を踏まえて、作業従事中におこった傷病に関しても、健康保険による保険給付を受けることができるようになりました(ただし、傷病手当金については支給されません)。
 しかしながら、被保険者数が5人以上の法人の代表者(社長)等は、原則どおり、業務災害に罹災した場合については、労災保険からも健康保険からも給付をうけることができません。したがって、労災保険に特別加入したり、生損保会社の医療保険や傷害保険に加入したりして、自己防衛する必要があります。