医療保険制度 2号
「協会けんぽ」つづき
3.前期・後期高齢者医療制度
被用者保険(協会けんぽ、組合健保、共済健保)の被保険者であった者が定年退職すると、その多くは国保に加入することになります。その結果、国保は被保険者の高齢化が最も進んだ制度となってしまいます。そのため、国保の財政負担は他の制度に比べ重くなり、それを是正するために各保険制度間の財政調整を行う必要が生じました。そこで設立されたのが退職者医療制度と老人保健制度です。
退職者医療制度は、被用者健康保険の被保険者であった者が退職して国保に加入した者のうち、厚生年金等の被用者年金の被保険者期間が20年以上、又は40歳に達した月以後の被保険者期間が10年以上あって、年金を受給している74歳以下の者を退職被保険者とし、その医療費について被用者健康保険が国保に負担金を拠出していました。
老人保健制度は、政管健保、組合健保、共済健保、国保等の被保険者及び被扶養者となっている満75歳以上の高齢者が対象でした。これらは、各々の医療保険に保険料を支払いつつ、各市町村が運営する老人保健制度にも加入し給付を受けます。市町村は、国保、被用者保険からの拠出金を財源として制度を運営していました。
このように従前の退職者医療制度及び老人保健制度は、各保険制度間の財政調整としてのあくまで縦割りの制度であったのですが、これらは2008年に廃止され、新たに創設されたのが、「前期高齢者医療制度」と「後期高齢者医療制度」です。
前期高齢者医療制度は、被用者保険や国保に加入している65歳〜74歳までの者を前期高齢者とし、被用者保険との財政調整により国保の負担を軽減するものです。したがって、この制度は従来通りの縦割り制度間の財政調整を目的とした制度といえます。
後期高齢者医療制度は、75歳以上の高齢者を後期高齢者とし、一つの独立した医療制度として発足したものです。したがって、被用者保険や国保の被保険者および被扶養者は、75歳になるとそれぞれの医療制度の資格を喪失し、全て後期高齢者医療制度に加入することになります。
なお、後期高齢者医療制度においては、後期高齢者一人一人が被保険者となり、保険料の負担も一人一人の個人単位で徴収されます。つまり、被用者保険等の被扶養者として、今まで保険料を負担する必要がなかった者も、この制度では負担しなければなりません(ただし、かなりの負担軽減措置あり)。
後期高齢者医療制度の費用負担の構成は、公費が5割、高齢者被保険者の保険料が1割、各保険制度からの財政支援である「後期高齢者支援金」が4割となっていますが、将来的に高齢者被保険者の費用負担が増加する可能性があります。
また、患者の自己負担率は、1割(現役並み所得者は3割)となっており、他の医療制度(基本的に3割負担)に比べて低い水準に設定されています。なお、この制度になって大きく変わったことは、後期高齢者に対して独自に定められた診療報酬制度で、かかりつけ医化の促進、在宅医療化の推進、終末期医療の管理、外来医療の包括化など全体的に医療費の効率化および抑制が図られたことがあげられます。
後期高齢者医療制度については、現在、廃止を前提に見直し作業が進められていますが、今後どのような内容の高齢者医療制度になるにせよ、少子化、高齢化がより一層進むことが明らかな世代構造の中で、将来、高齢者の受益者負担が増していくことは避けて通ることは出来ないと考えるべきです。したがって、現在の現役世代が高齢者になったときも今のような「高齢者に優しい制度」が存在し続けていると思って、老後の生活設計をして行くことは大きなリスクがあるといえます。「老後」は、まだまだ先の話と一蹴してしまうのではなく、少なくとも経済的な面においては、確実に迎える「老後」を見据えた自助独力型の生活設計がますます必要になってきているといえるのではないでしょうか。