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医療保険制度(健康保険制度) 10号

協会けんぽ」つづき
8. 保険給付

⑤ 療養費  健康保険では、被保険者及び被扶養者に対する療養の給付は、保険医療機関等の窓口に被保険者証を提示して診療を受ける現物給付を原則としています。しかしながら、現物給付を受けようとしても、やむを得ない事情により受けられない場合があります。このような場合、被保険者が一時的にその費用を立て替えておき、後日、保険者(協会けんぽ等)に請求することにより、療養費として現金給付される制度が取り入れられています。
 ただし、療養費の支給は、あくまで現物給付である療養の給付を補完するものであり、被保険者が現物給付と現金給付を選択し得るものではありません。療養費を受けられる場合とは、①保険者が現物給付を行おうとしても、行うことが困難であるとき、②やむを得ない事情で保険医療機関・保険薬局以外の医療機関・薬局等において、診療・薬剤の支給を受け、保険者がその事由を認めた場合に限られます。  ①については、以下のような例があげられます。
● 事業主が資格取得届の手続き中で被保険者証が未交付のため、保険診療が受けられなかったとき
● 感染予防法により、隔離収容された場合で薬価を徴収されたとき
● 療養のため、医師の指示により義手・義足・義眼・コルセットを装着したとき
● 生血液の輸血を受けたとき
● 柔道整復師から施術を受けたとき
 ②については、例えば、旅行中、すぐに手当を受けなければならない急病やケガを負ったが、近くに保険医療機関がなかったので、やむを得ず保険医療機関以外の病院で自費診察を受けたとき等が該当します。ただし、この場合、やむを得ない理由と保険者が認めなければ療養費は支給されません。
 療養費の額は、保険者が健康保険の基準で計算した額(実際に支払った額を超える場合は、実際に支払った額)から、その額に一部負担割合(3割、70歳以上75歳未満は2割)を乗じた額を差し引いた額となります。
 柔道整復師(整骨院・接骨院)における施術で健康保険の対象になるのは、骨折、脱臼、打撲および捻挫(肉離れを含む)の施術です(骨折および脱臼については、緊急の場合を除き、あらかじめ医師の同意を得る必要があります)。したがって、単なる肩こり、腰痛に対する施術は健康保険の対象にならず、全額自己負担となります。また、健康保険の対象になる施術であっても、保険医療機関で同じ負傷等の治療中は、施術を受けても健康保険の対象にはなりませんから注意が必要です。
 この他に、はり・灸の施術については、主として神経痛、リウマチ、頸腕症候群、五十肩、腰痛症及び頸椎捻挫後遺症等の慢性的な疼痛を主症とする疾患に対する施術、マッサージについては、筋麻痺や関節拘縮等であって、医療上のマッサージを必要とする症例に対する施術で、ともにあらかじめ医師の発行した同意書がある場合にかぎり健康保険の対象となります。
なお、療養費は、本来被保険者が費用の全額を支払った後、自ら保険者へ療養費を請求する「償還払い」が原則ですが、柔道整復(整骨院・接骨院)における施術等については、例外的な取り扱いとして、被保険者が自己負担額を柔道整復師に支払い、柔道整復師等が被保険者に代わって残りの費用を保険者に請求する「受領委任」が認められています。このため、多くの整骨院・接骨院等の窓口では、自己負担分のみを支払うことにより施術を受けることができるようになっています。