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労務管理の基礎知識 第5号

「解雇制限」(労働基準法第19条)

労働基準法第19条は、労働者が次のいずれかの状態にある期間について解雇を制限しています。

  1. 労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のため休業する期間、およびその後の30日間
  2. 産前産後の女性が労働基準法第65条の規定により休業する期間、およびその後の30日間

この規定は、労働者が業務上の傷病で労働能力を喪失している期間や産前産後休業中に安心して休養がされるようにするものです。したがって、この期間に懲戒解雇事由(業務上横領など)が明らかになったとしても解雇をすることはできません。

さて、前記1の休業期間ですが、これはあくまで業務上の傷病により休業している期間のことですから、業務外の私傷病による休業期間については解雇が制限されず、また、業務上の傷病で治療中であってもそのために休業しないで出勤している場合は解雇の制限を受けません。

そして、「その後の30日間」とは、療養のため休業する必要がなくなって出勤した日、または出勤し得る状態に回復した日から起算することになります。この30日間は休業期間の長短にかかわりありませんので、たとえ傷病による休業期間が1日であっても、その後30日間は解雇が制限されます。

次に、産前産後休業期間およびその後30日間ですが、労働基準法第65条の産前産後休業における産前休業は、労働者からの請求があって始まるものですから、出産予定日から6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内であっても労働者が休業しないで就労している場合には、解雇は制限されません。

そして、産後の休業は、出産の翌日から8週間が法定の休業期間ですから、この期間を超えて休業している期間は解雇は制限されません。また、産後6週間経過後に労働者の請求により就業している場合も同様となります。

なお、労働基準法第19条による解雇制限には例外が2つあります。1つは業務災害において療養開始3年経過後の打ち切り補償をしたとき、あと1つは天災事変等で事業の継続が不可能となり労働基準監督署長の認定を受けたときです。

以上のように労働基準法第19条に規定される解雇制限は、前述の2ケースの場合は如何なる理由があろうとも解雇できないとするものですが、この他に解雇理由に制限をつけているものがあります。以下のような理由で解雇することはできません。

  1. 労働者の国籍、信条またが社会的身分を理由とする解雇の禁止(労働基準法第3条)
  2. 労働者が労働基準法または労働安全衛生法の違反事実を労働基準監督署などに申告したことを理由とする解雇の禁止(労働基準法第104条、労働安全衛生法第97条)
  3. 労働者が労働組合員であること、あるいは労働組合を結成しようとしたことなどを理由とする解雇の禁止(労働組合法第7条の不当労働行為)
  4. 労働者が育児休業の申し出を行ったこと、あるいは育児休業を取得したことを理由とする解雇の禁止(育児・介護休業法第10条)
  5. 労働者が介護休業の申し出を行ったこと、あるいは介護休業を取得したことを理由とする解雇の禁止(育児・介護休業法第16条)
  6. 労働者が子の看護休暇の申し出を行ったこと、あるいは子の看護休暇を取得したことを理由とする解雇の禁止(育児・介護休業法第16条の4)
  7. 労働者が介護休暇の申し出を行ったこと、あるいは介護休暇を取得したことを理由とする解雇の禁止(育児・介護休業法第16条の7)
  8. 労働者が厚生労働大臣に対し、雇用保険の被保険者になったことあるいは被保険者でなくなったことの確認を請求したことを理由とする解雇の禁止(雇用保険法第73条)
  9. 女性労働者が婚姻、妊娠、出産、産前産後休業の請求をしたことなどを理由とする解雇の禁止(男女雇用機会均等法第9条)