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運用益(利息)が払ってくれていた退職金

退職金は、月例給与や賞与とは異なり、入社してから退職するまでの期間積み重ね、増加していく企業の賃金債務です。現在、日本独特の雇用慣行といわれる終身雇用制が揺らいでいるとはいえ、入社して定年退職するまで40年前後の勤続年数となるケースは、決して少なくはありません。そして、その原資のほとんどは、企業年金や中小企業退職金共済などの社外積立制度により準備されています。
ここで運用利率が退職金にどれだけの影響を与えているのかを、以下の条件で説明します。
1.退職金規程に定められた勤続40年での定年退職の退職金支給水準:約1,700万円
2.毎月の退職金積立額:10,000円
 社員が入社すれば将来支払うべき退職金原資を計画的に毎月1万円ずつ、40年間(480月)積立てていきます。積立金元本は、40年間をかけて1万円×480月=480万円となりますが、40年後の積立金額は、その間の運用利率により大きな差が生じます。
 年5.5%複利、3.0%複利および年1%複利で、計算してみると、それぞれの利率で40年後(480月目)の最期の1万円の積立てたとき、積立金総額(元利合計金額)及び運用益(利息)は、以下の表のようになります。

中小企業の退職金制度改革
このように運用利率が5.5%と1.0%では、運用益に1,100万円以上の差が生じます。運用利率5.5%が当たり前であった昭和の時代に、退職金規程により勤続40年の従業員の退職金水準を1,700万円程度に設定していても毎月1万円を積立てていれば退職金原資は、充分確保できたことになります。それが3.0%の状況では退職時に約800万円、1%の状況では約1,100万円が不足してしまいます。退職金規程に定められた退職金支給水準が1,700万円である以上、運用ができなかったからといって支給額を減らすことはできません。つまり、この不足額は企業が全て毎月の積立金とは別に負担しなければならないことになります。
 今回の適年制度廃止とは、このような法人税等の税の優遇措置の制度が廃止されるのであって、決して法人が契約している企業年金そのものが無くなるわけではありません。勿論、40年間、運用利率が全く変動しないということは考え難い話ですが、運用利率がどれだけ退職金支払に影響を与えるのかをおわかり頂けることと思います。
 つまり、運用利率5.5%が見込めた昭和の経済環境の中で、退職金は運用益(利息)によって支払うことが出来たのであって、企業が負担した金額は退職金の一部にしか過ぎなったということです。言いかえれば、(特に長期勤続になればなるほど)退職金は、当時の金融市場の運用益が支払っていてくれていたのであって、企業の負担で「払ってやっている。」ものではなかったともいえます。退職金制度を新たに設けたり、従来の退職金制度を見直したりするとき、このことをしっかりと認識しておく必要があります。
 CS労務経営研究所は、これからの不確定な時代にも充分維持・運営できる退職金制度を提案いたします。